マイ・ボディガード

マイ・ボディガード
新宿で『マイ・ボディガード』。
主演のデンゼル・ワシントンが演じるのは、かつて対テロ活動の任に付き、殺人を犯し続けた忌まわしい過去に悩む男、ジョン・クリーシー。そんな彼が、誘拐事件が多発するメキシコ・シティで、少女ピタ(ダコタ・ファニング)のボディ・ガードを引き受ける。
彼女との交流によって、徐々に人間らしさを取り戻し始めるクリーシー。だがそんな最中、彼の目の前でピタが誘拐されてしまう。自分にとって新たな生きる希望であったピタを奪われた彼は、一人復讐を誓い、巨大な犯罪組織に立ち向かう…

映画の前半は、人間らしさを失った男と寂しがりやの少女の心の交流を、暖かなタッチで描いている。ところがピタが誘拐され、怒りに燃えたクリーシーが復讐に立ち上がるや雰囲気は一変、戦争映画も顔負けのハードな展開が用意されている。この前後半の激しいギャップが、この作品の一番の見所と言って良いだろう。
誘拐組織の一掃を心に誓ったクリーシーが、自分を取り戻すための「必要悪」として、再び人を殺める道に身を投じていく。それは彼にとって、一種の浄化作用のような意味合いもあるのだ。
ピタが物語の上で果たす役割はそもそも、クリーシーが人間性を取り戻すためのきっかけに過ぎず、それほどに大きな役どころでは思う。そのピタの存在がクローズアップされているのは、ダコタ・ファニングの人気に負うところも大きい(最近、歯並びが悪くなってきたのが気になるが)。

『マイ・ボディガード』という邦題も、映画前半を主眼として踏まえた命名だ。ところが原題の”Man on Fire”は、後半のことを指し示している、このギャップはなかなかに面白い。日本では、ある意味陰惨にも思える復讐劇よりも、寂しさを共有する二人の触れ合いをメインに売り込む方が、集客力があると読んだのだろう。

R-15指定ということもあり、過激なシーンばかりが見せ場の映画なのでは…と心配だったのだが、『L.A.コンフィデンシャル』のブライアンド・ヘルゲランドが手がけた脚本がなかなか良く、2時間20分ほどの長尺にも関わらず、大味な印象も無く最後まで観られた。
その脚本を、ヴィジュアル系(?)のトニー・スコットが、いつものように派手な編集と目を奪うような映像でテンポ良く語っている。ただ、やたらチカチカして長く正視することの難しいような映像処理が、脚本に見合ったものかどうかは疑問を覚えざるを得ないが…でもまあ、これをやらないと気が済まないというか、当人の持ち味が出ないのでしょうね。

全編にわたってメキシカン・ポップスが流れる中、クリーシーのテーマソングとしてたびたび使われているリンダ・ロンシュタットの「ブルー・バイユー」が耳に優しい。彼女の曲などもう何年も、改めてじっくり聴くことはなかったけれど、こうして作品の枠内に収まってみると、どこか懐かしささえ覚えるから不思議。こういうところも、映画を観る楽しみの一つだ。

3.5

鑑賞メモ

新宿ピカデリー3

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