某深夜番組に出演し始めて以来、井筒監督にはあんまり良い印象が無い。「自腹じゃ!」なんて威張られても、映画ファンにとっては料金を払って観るのはごく当たり前のこと。そんなに”自腹”を強調されても・・・と白けてしまう。なんとなく、TV番組という名の檻に閉じこめられたライオンが虚しく吼えているようで、どことなく寒々しい印象を受けてしまったのはぼくだけだろうか。
採り上げる作品が洋画中心というのも、なんとなく気に入らなかったりする。番組の意向もあるんだろうが、どうせなら邦画界の上下関係なんて無視して、監督自身に程近い現場で創られた作品に対してこそ、正々堂々と物申して欲しいのだけど。
そんなわけで「やっぱり映画監督は映画で感心させて欲しい」なんて偉そうにも思っていた矢先、封切られた前作『ゲロッパ!』が正直もう一つだっただけに、不安が先に立ってしまったんだが…。この『パッチギ!』には恐れ入りましたと頭を下げるしかない。これは間違いなく良品です。
なにしろ役者達がみんな良い。話の中心となる高校生達を演じた若い役者達は、さほどネームバリューがあるわけではないけれど、この作品の中では、それぞれ役柄にピタリとはまって熱演を見せる。
件の深夜番組でのパートナー、揚原京子を重要な役にキャスティングしているあたりは、監督が何より「人と人との繋がり」を大事にする、その人柄ゆえという事もあるのだろう。しかし、TVで見るイメージとはかなり離れた役柄を与えておいて、その上で、ブラウン管の中の彼女からは想像がつかない存在感を生むあたり、演出家としての力量を見せつけられた気がする。
『のど自慢』の「花」と言い、この映画の「イムジン河」といい、日本人の琴線に触れるような歌を題材にすると、井筒監督は水を得た魚のように力を発揮するようだ。『ゲロッパ!』ではアメリカ人の魂、ソウル・ミュージックに挑戦していたが、やっぱり監督には日本のポピュラー音楽がマッチすると思う。
その情感豊かな「イムジン河」をバックに、様々な人物の姿がかわるがわる映し出されるクライマックスの演出方法は、思い起こせば『のど自慢』と全く同じ。このスタイルは井筒監督の得意技、つまり、監督自身にとっての”パッチギ”なのだろう。「任しとき!」と叫ぶ監督の姿が目に浮かぶようです。バンザイ!
鑑賞メモ
新宿ジョイシネマ3
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