つぐない(2007)

つぐない
1930年代のイギリス、裕福な家庭に生まれ育った年の離れた姉妹が、。愛し合う二人の様子を覗き見た妹が、ほんのささいな誤解と嫉妬心とから、仲を裂いてしまう。
やがて成長した少女は、愛し合う2人の人生を狂わせてしまったことに気付き、自分の生涯を通じ心からのつぐないを誓う…

作品紹介などで目にするこうしたプロットを一読すれば、時代の移り変わりとともに描かれる、大河ドラマ的スケールの壮大な物語を想像してしまうだろう。
前半の舞台となる瀟洒な屋敷の美術設定など、全体を通じて受ける印象はまさしくクラシカルなのだが、そこには極めて現代的で理知的とも言えるテクニックが内包されている。そして、この『つぐない』が優れているのはまさに、クラシックな雰囲気と現代的なテクニックとの程良い調和、ロマンと技巧との融合にこそあるのだ。

TV出身のジョー・ライト監督は、重厚な絵巻物にも成り得るこのプロットを、極めて簡明で即物的とも捉えることの可能な技法で淡々と綴っていく。その技法の在りようは、例えば妹の心の動きを描き出す時間軸の捉え方に顕著だ。彼女の生涯は、3つの独立した時代を経て描かれるのだが、その様子を、時代を越えて連綿と続く痛みや後悔の”線”として緻密に描き出すのではなく、むしろ途切れ途切れの独立した”点”としての独立した時間軸に見えるように映し出している。
これは、あくまでも過去の事件を”原因”として、それが引き起こす”結果”との関連性を冷静に見つめることを目的としている故であり、また、終盤に用意される”謎解き”を効果的に見せる準備作業として必然的に要請されたテクニックでもあるのだろう。

こうした技法は、ともすれば説明的に過ぎるあまりスクリーンを矮小化するがごとく映画として地味な作品になりがちなのだが、ところどころにスケールの大きい情景を差し挟むことにより、極めて映画的な空気の醸成に尽力することを忘れてはいないのが秀抜。
無実の罪で投獄された男が戦場にかり出され、疲弊の果てに辿り着いた海岸で、帰還の日を待ち続ける兵士たちの中をさまよい歩く様子をワンカットで見せるシーンはその白眉とも言える。爆音と銃弾でリアルな戦場の描出を追求したと喧伝するアクション映画よりも、わびしく行き場の無い閉塞感が漂う「戦場らしい戦場」がそこに現出しているのだ。

映画的な見せ場と技巧と物語、この3点に対してバランス良く目を配るとともに、思い切りの良さも忘れてはいない。気配りと大胆さとを同時に併せ持った佳品だと思う。

4

鑑賞メモ

テアトルタイムズスクエア

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