イニシエーション・ラブ

イニシエーション・ラブ 乾くるみ

帯に踊る「最後から二行目で、本書は全く違った小説へと変貌する」との紹介文。こんな思わせぶりな紹介をされる小説には時に、読後思い切り落胆させられることがある。ある種の「どんでん返し」を狙ったミステリーは時として、ラストまで長々と語り築き上げた小説の印象を反古にしてまでも、謎の開示が醸し出す効果にばかり注力しようとする場合がある。そんな、小説としての本質を見誤ったようなミステリを読んでしまうと、なんだか憤懣やるかたない気持ちばかりが残ることになる。

その点、この『イニシエーション・ラブ』は、問題の”最後の二行”の読後にも、小説全体が紡ぎ出す印象に大きな変化が無い点が秀抜だと思う。「若さ故に愚かしく繰り広げられる恋愛」という小説を貫く線は、謎が明らかになった後にも変わることが無い。そればかりか、このラストで明らかになる新事実を読後噛みしめるにつれ、”イニシエーションラブ”の連鎖、世の中で日々量産される若さ故の通俗的な恋愛の集積を思い、そこから受ける「遣る瀬なさ感」が増す思いすら覚えるのだ。

小説をあとがきから読み始める人も多いと思うのだけど、文庫版で本書を読む人は止めておくことをオススメします。直接的に物語や謎の核心に触れているわけではないですが、間接的にヒントのような形で触れていますので。

3.8

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