近年の米喜劇では、一風変わったキャラクター(たいていはちょっと名の売れたコメディアン)が常識はずれのハチャメチャな言動で場を壊す、というパターンが定着してしまっていて、その質にはかなり首を傾げたくなるものが少なくなかったりする。
この『ハングオーバー!』でも、女好きの色男、神経質な歯医者、ちょっとイカレ気味で幼児性を備えた太めの3人組という、いかにも騒動の火種になりそうな登場人物が物語の中心になるのですが、ナンセンスと紙一重のような非現実でハチャメチャな話ではなく、意外にも正統的な巻き込まれ型コメディのバリエーションとしてキチンと成立していると思う。
バチェラーパーティでラスベガスを訪れた面々が、朝目覚めてみると昨夜の記憶が全くない中で、夜の間に姿を消してしまった花婿を探すため奔走する、というプロットの中で、くだんの3人組は徹頭徹尾、常識的なほど常識的にふるまっている。この映画の脚本がどうして上のような”破壊的なキャラクター頼み”の失敗にハマらなかったのか、その理由をちょっと考えてみると、この物語の場合そもそも、ハチャメチャなのは”記憶を失っている間”なのですね。
花婿を除いた3人は、記憶を失った間に自分たちが巻き起こしてしまっている騒動に面食らい、そのツケを払いながら花婿を追うわけだけれども、その過程でもう一度ハチャメチャな振る舞いをさせてしまっては、本当に話がメチャクチャになってしまう。なので結果的に3人はきわめて普通の態度でもって自分たちの失われた記憶を追い続けることにならざるを得ない。意図的なのか偶然なのかよくわからないが、これが脚本として最も功を奏している部分なのでしょう。
また、躁状態でハシャギ過ぎの悪ノリパターンを免れているコメディであっても、もう一つの失敗パターンとして、キャラクターのおざなりな人間的成長物語に仕立て上げられてしまってつまらなくなってしまうケースもあるのですが、この映画の場合は、半端な正義感やヒューマニズムに逃げ込んでいないのも小気味よい。
ただ、リアリティとギリギリのところで成立する性質の喜劇では、現実に照らしておかしな部分がないかどうか、そうした細部に常に気を配らないとならないのですが、その意味で『ハングオーバー!』は今一歩のところでツメが甘くなっているのがちょっと惜しいかな。
あとやはり、コメディにはもっとギャグが欲しい。人間が、人間を楽しませ笑わせることだけに頭をフル回転させる、その結晶が欲しい。ただそれだけのことが、2010年の映画体験ではかなり難しいのですね。
☆☆☆★
ハングオーバー!

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