人生万歳!

人生万歳!
映画が好きで、しかも映画館で観るのが好きだという今や珍しい部類に入る、東京近郊在住の、ある一定の年代以上。こうした条件にあてはまる人であれば、必ずここへ一度や二度は足を運んだこともあるはず。
そんな映画館、恵比寿ガーデンシネマが1月で閉館する、しかもラストを飾る映画がウディ・アレンの新作と聞けば、行かずにはいられなくなるのが性分というもの。
記憶をたどればウディ・アレンが撮る映画の主人公、それは過去アレン自身が演じることが多かったのだけれども、その男の表情はカメラの真正面からとらえられたことが少なかったように思う。記憶の中で男は常にスクリーン正面に対し少しばかり斜めに構え、横を歩く女性(ごくまれには男性)と歩調を合わせつつ、被害妄想気味な繰り言を速射砲のようにのべつ畳み掛けていた。
主人公を演じる男優こそ違えど、この『人生万歳!』でもその姿勢は変わっておらず、性格描写よりもその「斜めスタイル」にこそ、まさにウディ・アレン映画の主人公らしさを感じてしまう。そうかと思えば、そのスタイルを逆手に取ったような仕掛けもあったりして、思わず頬がほころんでしまったり。
アレンの映画としてこれも久々に古巣ニューヨークを舞台としているのも嬉しい限り。グルーチョ・マルクスが調子良く歌う”Hello, I must be going”で幕を開けたお話は、あらゆる人間社会の常識や通念をぐるぐると巻き込み、るつぼのようで残酷なアメリカの一面を垣間見せつつも、しかしここ数年のアレン作品が宿していた「苦み」は薄められたまま、あらゆる人生の困難なんてどこ吹く風、「何でもありさ」(原題”Whatever Works”)と言わんばかりに幸福感あふれる大団円へと進んで行く。
この脳天気な展開はもう75歳にもなるアレンの老境なのか…と考えつつも、いやいや次の作品ではまた苦々しい人生の隙間風をスクリーンに吹かせようと狙っているのかもしれないぞと、そんなふうに次回作への想像をたくましくさせてくれるほどに元気で新作を撮り続けているアレンがいる幸せと、一方では、ガーデンシネマ閉館後にその新作を上映してくれる映画館がこれから果たしてあるんだろうか?という不安とを、しばらくは噛み締めながら待つことになるんだろうなあ。
☆☆☆★★

コメント

タイトルとURLをコピーしました