アンダーニンジャ

現代社会の裏側に、多くの忍者が身を潜めて生き残っており、その身体能力を武器として、軍隊レベルに匹敵するほどの戦闘能力を持つ集団を形成していたらどうなるか・・・という発想そのものは、歴史改変をともなうエンターテインメントの設定として、極めてオーソドックスな手法だろうと思う。
あとはこの設定を物語世界に活かし、どのような世界を創り上げていくのか?が製作者に求められる課題なのだが・・・
原作コミックを読んでいないので、オリジナルがシリアス・重厚長大な作風なのか、はたまた軽快・時にコメディ色も顔を出すライトタッチなのか、それはわからない。しかし、福田監督が手掛けると決まった時点で、映画版のトーンはほぼ決まったようなものだろう。

福田監督の作風をご存知の方ならお分かりかと思うが、その作風を受け入れる人と、受け入れない人とに極端に分かれるというのは、もはや曲げようの無い事実だ。作品全体のトーンがコメディだろうがシリアスだろうが関係なく、佐藤二朗やムロツヨシなど、彼の作品にお馴染みの俳優たちが、アドリブ混じり(だと思うが)でふざけまくる。そんなシーンが本編そこかしこに、唐突に差し込まれる。
ある意味、物語の軸から完全に逸脱することも厭わず挿入されるこれらのシーンが、まったく肌に合わないという人は、監督の作品を観る前から、目くじらが立っているような状態でスクリーンに向かっていることだろう(いや、そう言う人は、そもそも監督作を観ないのか・・・)。

こうした批判的な意見が世間に一定量存在しているのは、制作関係者にとっても周知のこと。だから、その状況下においても、福田監督にオファーしているという時点で、製作者たちは批判覚悟で、いつもの展開になることを許容して、制作プロジェクトを進めているに違いない。
本作を形作る雰囲気の基本線は、わりとシリアスな方面に傾いているが、批判の声に迎合することもなく、つまりおふざけの程度を緩めたりせずに、いつもどおりのしつこく粘着質な悪ふざけを貫いている。それはそれで、その正々堂々とした態度に、ある種の清々しさを思えなくも無い。

かく言う自分はというと、福田監督の粘っこいおふざけが決して嫌いなわけではない。『今日から俺は!』のように、ハマった時の爆笑力?はすさまじいものがあるわけだが・・・
この『アンダーニンジャ』では、残念ながらその「粘りおふざけ」は、悪い方向に機能してしまっている気がしてならない。

同じおふざけを何度も何度もワンカットでくり返すうち、共演者が笑ってしまっているあたりまでをそのまま見せるような、演者の裏側にあるリアルな反応までを曝け出す表現は、もともとが映画的ではない。ある程度のクローズアップをともなうコントの中か、深夜ドラマか、いずれにしてもテレビサイズのフレームの中でこそ、適切に機能するものだと思う。
それを、劇場映画であっても、意識的かつ確信犯的にやってしまうところが、福田監督の狙いでもあるのだろうけど・・・
この映画で、お馴染みの俳優たちが演じるキャラクターは、それぞれ原作にも登場するキャラではあるようなのだけれど、どう贔屓目に見ても、この映画の物語を推し進めるうえでは何の機能も果たしてはいない。そんな、登場する必然性に欠けるキャラクターが、延々と、3分、5分程度といった尺で続けるおふざけは、ふだん監督の作品を好意的に観ている人にとっても、嫌気が刺してしまうレベルに達しているように思える。

ただし、本作を醒めた目線で見てしまう原因は、そうしたおふざけではなく、全く別のところにある。
エンターテインメントの作劇上でケアすべき基本的な考慮点が、ないがしろにされているからだ。
この作品では、何名かの登場人物が、それぞれ独立した対立構造で戦い、それらが同時並行で描かれながら結末へと向かう構成をとっている。
ここで、本作において、物語への没入を妨げてしまっている点が、大きく2つ見出せると思う。

  • 並行して描かれる対戦・対立構造が完全に独立していて、それぞれのキャラが協力体制を取ったり、対立構造がクロスオーバーしたりすることがほぼ皆無で、最後まで交わることがない
  • 並行して描かれるエピソードの中で、作品世界中で最も危機的状況を生むはずのスケールの大きなエピソードに、主要キャラクターが誰も関わっていない

自分の見たところ後者が、特に致命的であるように思えてならない。このエピソードは、作中のかなり多くの人物や背景に大きな危機をもたらすもので、だからこそ、観客を惹きつけるサスペンスの源としての役割を果たすべきだと思うのだが・・・
主要な登場キャラは誰一人としてこのエピソードに関わらないという、信じられない状況が生まれている。これで劇的な盛り上がりを期待するというのも、少々無理な話ではないかなと・・・
さらに言えば、このエピソードは、忍者集団が過去より保有する、とある武器をめぐるものだが、その武器の具体的な威力や背景などへの説明にも欠けているため、えっ、これ、いったい何が起きてるの?みたいな状況ばかりが、うわ滑っていくことになる。

たとえば山本千尋の、武術太極拳で鍛えた体技を活かした戦闘シーンなど、見応えがある場面も確かにある(このキャスティングは拍手もの)。が、これにしても殺陣や見せ方しだいでは、もっと胸が躍るような場面になる可能性もあったのではないか?
アクション・エンターテインメントとして押さえるべき部分は押さえ、工夫に次ぐ工夫を施して観客を大いに湧かせつつ、その上で、粘っこい笑いを存分に入れ込んで脱力させる、そんな作品を福田監督に期待しています。
いまや監督のコメディエンヌ・ミューズとなった橋本環奈に続けとばかり、変顔にチャレンジする浜辺美波だけでは、観客を引き込むには物足りないだろうから(いや、それはまあ、それはそれで、良い感じではあるけれど)。

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