サンダーボルツ*

「アベンジャーズ/エンドゲーム」以降、少しばかり失速気味と評されることの多くなったマーベル・ユニバースの最新作。
宣伝材料を観る限り、「間違いなく強いが性根が腐り切った大悪党どもが正を成す」「やさぐれチームの大活躍」のような、悪の力で悪を制す類の物語、という受け止めかたをしてしまいそうで、実際ぼくもそのように想像したのだが・・・
「スーサイド・スクワッド」や「ブラックアダム」のようにダークヒーローが腕っぷしで勝負するというよりも、なんというか、黒いマインドフルな世界にどっぷりと浸かってください、というタイプの作品なのだった。

いわく「トラウマを抱えたスーパーヒーロー」「世界を救うヒーローにだって、弱い部分はある」。この手の、ヒーローのダークサイドを丹念に描こうとする試みは、2025年時点ではもはや、完全なるステレオタイプと化してしまっていると言ってよいだろう。
観客としての意見を正直に言うなら、もうかなり、食傷気味だ。
あの絶対的正義のはずのスーパーマンですら、暗い過去を引き摺らなければ「深みが無い」「人間ドラマを描いていない」と揶揄されるご時世になってしまった。
その「ドラマ」を重視すべく、無理にでも落ち込みエピソードを盛り込むことが脚本家の義務になってしまっているような、極端な方向に振り子が振られている感が拭えない昨今だ。

それでも、そうしたステレオタイプの既視感を吹き飛ばしてしまうほど、見せ場と高揚感に溢れた作品であれば文句も無いのだが・・・本作に、飛び抜けて愉快痛快な見どころや、心を打たれる挿話が用意されているかというと、残念ながらちょっとそちらも心許ない、というのが冷静な評価となってしまう。
本作には、必ずや倒すべき、凶悪で最強の相手!と一目で分かるような、いわゆる”ヴィラン”は登場しないし、また「サンダーボルツ」の由来になったエピソードも、うまく生かされているとは思えない(これ、かなり不満なんですが。サンダーボルツの名の下に活動することこそが、落ちこぼれヒーローの誇りとなるべきじゃないのか?)。だから、単純な話、明快なカタルシスを産むための仕掛けに乏しいのだ。
作品のトーンを考えれば、「ウォッチメン」のように、哲学的に考察すべき命題を内に含んでいるわけではないのだから、最終的には勧善懲悪の落とし所は必要になる。そのはずなのに・・・これはちょっと怠慢なのではないですか?と言いたくもなる。

とにもかくにも、トラウマと劣等感に苛まれるヒーロー達の逆転劇を描いた「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」という傑作シリーズを観てしまった後では、あれを超える作品を製作するのは相当に難しいのではないか?という印象が深まる。
結局のところ、「ヒーローの心の闇」×「アンチヒーロー」という、近年の2大ステレオタイプ的ヒーロー設定を組み合わせただけの映画に止まってしまったようで、勿体無さを覚えてしまう。
今後、ヒーローシリーズがさらに進化するためには、またもう一つ、何かしらのブレイクスルーが必要になるのでは無いかな・・・。

コメント

タイトルとURLをコピーしました